風景に書き込まれた歴史を読み解く

The Story Behind the Scenery

新田次郎『怒る富士』

怒る富士 上 新装版 (1) (文春文庫 に 1-36)怒る富士 上 新装版 (1) (文春文庫 に 1-36)
(2007/09/04)
新田 次郎

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新田次郎『怒る富士』は、富士山の1707年噴火を扱った歴史小説である。1974年に文藝春秋社から出版された。その後1980年に文春文庫からも発行されたが、近年は長いこと品切れ状態が続いていた。私はずいぶん前に『怒る富士』の評判を聞いて、入手を試みたが果たせなかった。

数日前、行きつけの書店で文庫版を偶然みつけた。手に取ると、1707年噴火の300周年にあたる本年2007年9月、新装版が発行されたことがわかった。上下2冊からなる。

富士山の1707年噴火では、スコリアに厚く埋まった被災地に幕府が早々と亡所宣言を出したことや、その後の伊奈半左衛門の功績を、他書を読んで私は知っていた。『怒る富士』は、そのありさまを他書にみられない現実味をもって具体的に生き生きと描き出している。佐太郎とつるの恋物語や才女おことの周りで起こる事件を推理小説仕立てで織り込みながら、幕府の正史である徳川実記や山北村鈴木文書などの地方文書を引用しつつ、前代未聞の深刻な噴火災害への行政対応がどう行われたか、住民がそれをどのように乗り越えたかを詳しく記述している。

被災地から駿府に働きに出てきた男たちを、保護する目的で同じ長屋に住わせたというのは、現代の噴火災害対応とくらべると興味深い。また、災害復興のために全国の大名から集めた金の過半を大奥改修に使ってしまったり、飢民救助の目的で幕府から支出された3万両を治水工事に流用するなど、災害に乗じて不正が行われるのはいまに始まったことではないと気づかされる。地元業者を出し抜いて江戸の業者だけで工事入札をやってしまう。韓使接待の混乱に乗じて駿府の米倉を開かせる。このような権謀術数うず巻く中で災害対応が進んでいく。

冬を迎える準備ととのった奥飛騨



錫杖岳はすっかり白くなり、朝は里にも雪がちらつきました(12月2日)。

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